日本刀鑑賞をしている時に、キャプションなどで「磨上(すりあげ)」「大磨上(おおすりあげ)」といった言葉を目にしたことはありませんか?
前回でも少し触れましたが、今回は磨上とは何なのか、またその見分け方をご紹介しようと思います。
磨上とは、以下のように、日本刀を茎(なかご)側から短くすることを言います。
なぜそんなことをするのでしょうか?
美術品を切り詰めてしまうのは、今日ではあまり良いことではないように思えますね。
しかし日本刀はかつて、実用品でした。
所有者の腕の長さや身長に合わせて使いやすいように形を変えるのは、道具として当たり前のことです。
また、前回お話しした通り、日本刀は歴史の変化によって求められる形が変わります。例えば幕末の時代に、長大過ぎる太刀は実用品としての役割を果たさなかったのでしょう。
ですから、日本刀を時代に応じ使いやすいように短くすることは昔から行われてきました。特に、江戸時代に幕府から帯刀の長さに関する規定が発布された際、それに合わせるため多くの刀が磨上され、また、既存の拵えに合わせて磨上を行うこともあったようです。
さて、磨上には種類があります。
まず、「磨上」とだけ言われる場合。
数cm程度茎から切り詰めた物で、在銘の場合は銘が残ります。
「大磨上」と言われる場合、磨上が過ぎて銘が無くなっています。元から無銘ではないので、大磨上無銘と言います。
90㎝以上もあったような南北朝の大太刀のほとんどは、後年、この大磨上状態になりました。
なお磨上とは多少異なりますが、他に「区送り(まちおくり)」と言って、茎は弄らず、区(茎と刀身の境)の位置を上にずらすこともあります。
ここまで分かったところで、磨り上げられた刀をぜひ見分けてみましょう。方法は幾つかあります。
①茎尻(なかごじり)の形
全てがそうとは限りませんが、
磨り上げられた刀はなるべく元の茎を残すため、上図のように茎尻が切(きり)と呼ばれる形になっている場合が多いです。
②茎の錆のつきかた
磨上された場合、もともとの刀身部分を茎にしたため、錆が途中で線を引いたように変わる部分があります。
③体配から見て取る
磨上を行った刀は完全な形から少し外れた独特の形になってしまいます。平安時代の刀の形、鎌倉時代の刀の形といった時代ごとの形がありますが、そこから想定するとやや足りない感じを受けるのです。
これは、他の多くの刀を見慣れないと難しいかも知れませんが、磨上前の姿や刃文を想像する楽しみがありますので、少し意識してみると良いかと思います。
まとめ
日本刀は時代や人のニーズに合わせるため短くされることがあった
磨上=磨上されているが銘が残っている
大磨上=銘が消えるほど磨上されている
見分けるには茎や体配を見る
磨上された刀は、健全な姿ではないということで、美術品としての価値は下がるのかも知れません。ただし、磨上されるということは、その刀が時代遅れになっても、手直しして使って行こうとする誰かが居たということです。
磨上は、日本刀が常に日本人の身近にあったことを示す特徴なのかもしれませんね。
茎尻の形などは見つけやすいと思うので、ぜひ、美術館などへ行かれた際に探してみてくださいませ!
監修:刀剣座談会様
執筆:へび
参考/画像の一部:日本刀の掟と特徴(本阿弥光遜氏著)※パブリックドメイン
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